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最高裁判所第二小法廷 昭和59年(し)122号 決定

申立人

○○○○

右の者に対する職業安定法違反被告事件について、昭和五九年一一月二一日福岡高等裁判所がした保釈却下決定に対する抗告棄却決定に対し、弁護人湯口義博から特別抗告の申立があつたので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は違憲(三一条、三四条違反)をいうが、その実質は、刑訴法八九条一号の解釈適用に関する、単なる法令違反の主張であつて、同法四三三条の抗告理由にあたらない。

なお、職業安定法六三条の罪のように、短期一年以上の懲役刑のほか選択刑として罰金刑が法定されている罪に係る事件の被告人についても、地方裁判所に公訴が提起されたときは、刑訴法八九条一号の適用があると解するのが相当であつて、これと同旨の原判断は正当として是認できる(最高裁昭和三一年(あ)第一〇六号同年一〇月五日第二小法廷判決・刑集一〇巻一〇号一四二七頁参照)。

よつて、同法四三四条、四二六条一項により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(島谷六郎 木下忠良 鹽野宜慶 大橋進 牧圭次)

弁護人湯口義博の特別抗告申立書(抄)

〈前略〉

四 おもうに、刑訴法第八九条各号は、いずれも勾留の目的である逃亡及び証拠湮滅の防止の見地から、勾留の目的を達するため、やむを得ない場合として必要的保釈の例外を定めたものであり、同法同条一号の立法趣旨は、被告人が短期一年以上の懲役もしくは禁錮にあたる罪を犯したものであるときは一般的に右勾留の目的である逃亡又は証拠湮滅の可能性が存在すると考えられるところから必要的保釈の除外事由としたものである。

また、刑訴法第八九条の解釈にあたつては、被告人の犯した罪につき定められている法定刑を基準に判断すべきことは通説の認めるところである。

しかも被告人の犯した職業安定法第六三条二号は、法定刑中に選択刑として罰金刑の定めがあるものである。

刑訴法八九条の立法趣旨は前記のとおり法定刑の最下限ですら短期一年以上の懲役もしくは禁錮にあたる罪については必要的保釈を認めない趣旨と解すべきものであり、したがつて選択刑として罰金刑の定めがある場合は、刑訴法第八九条一号には該当しないと解すべきである。

〈後略〉

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